【体験談】美大に行きたい高校生と母親の相談に教師が伝えたこと

雑記帳

1. 美大を目指す高校生との出会い

高校3年生の春。美術部に所属する女子生徒が、進路について悩んでいた。
彼女の志望校は美大。成績は平均的で偏差値は50ほど。特別に優秀というわけでもないが、美術にかける想いは強かった。

ある日、彼女から「母と面談してほしい」と依頼を受けた。最初は本人と進路について話すことにした。


2. 本人との会話:憧れだけでは続かない世界

生徒は少し緊張した表情で切り出した。

生徒「先生、私、美大に行きたいねん」
僕「ほう、ええやん。でもな、大変な世界やで。高校の美術部とは違って、厳しい世界や。憧れだけやったら続かんで」

長年、美術教師を務めてきて、この手の相談は山ほど受けてきた。中には「絵を描いていればいい」と思っている生徒もいたが、現実はそう甘くない。

美大受験は実技試験を伴うことが多い。しかも、生半可なデッサン力では到底太刀打ちできない。多くの受験生が何百枚もデッサンを積み重ね、ようやく試験に挑む世界だ。

彼女も部活動で描き慣れてはいたが、現状では力不足を感じていた。そこで、少し厳しい言葉をかけることにした。

「でも今はまだ1学期や。これから本気でわき目も振らずに受験勉強をすれば可能性はある。君は基礎力はある。後は入試用にどれだけカスタマイズしていけるかやな」

生徒は真剣にうなずいていた。


3. 親との面談:お金と不安のリアル

後日、母親との面談の日がやってきた。母はやや緊張した面持ちで口を開いた。

母「先生、本当に美大に行っても大丈夫なんですか?」

一人娘の進路。初めての大学受験。不安は当然だ。そこで、まずは多くの家庭が気になる経済面について率直に話した。

「美大は普通の大学の1.5倍くらいお金がかかります。さらに材料費や制作費など、追加の出費も多いです。そのあたりは大丈夫ですか?」

母は少し考えたあと、こう答えた。

母「それは何とかなりそうです。私も色々調べました」

家庭が経済的に比較的恵まれていることは理解していたが、それでもあえて現実を口にしたことで、母から信頼を得られたように感じた。


4. 親が気にするのは「その先」

続いて母からの質問は、やはり将来についてだった。

母「先生、美大に行くのはいいのですが、その後の就職はどうなんですか?」

高校生が「合格すること」に目を向ける一方で、親は「卒業後のキャリア」に目を向ける。この意識の違いが親子のすれ違いを生む。

そこで僕は、こう答えた。

「卒業後の進路は景気に左右されます。美大を出ても全員が作家になるわけではありません。ほとんどの学生は堅実な仕事につきます。美術教師や公務員、デザイン事務所、広告代理店など進路は幅広い。美大出身というのは“絵が描ける”という強みがあるので、大きなアピールポイントになります」

母はその答えを聞いて、少し安心した表情を浮かべていた。


5. 生徒と親に伝えたメッセージ

僕は改めて、二人にこう伝えた。

「美大は本当に楽しいところです。やりたいことを持った学生が集まるので、刺激を受けられます。ただ、周りに流されず、自分の将来像をしっかり描ける人が強いんです」

この言葉は母だけではなく、生徒にも向けた。彼女は大きく頷き、目の奥に決意の色が見えていた。


6. 結果とその後

面談の最後に母はこう言った。

「わかりました。主人とも話し合ってみます」

こうして親子は納得し、彼女は美大の油絵科に合格。
あの春の話し合いが、進路を現実と夢の両面から考えるきっかけになったのだと思う。

そして現在、彼女は大阪の大手デザイン事務所で活躍している。
教師として、夢を頭ごなしに否定せず、現実を伝えながら背中を押せたことを誇りに思っている。


7. まとめ:美大進学を考える高校生と親へ

この経験から改めて感じたのは、以下のポイントだ。

  • 美大進学には「費用」「実技力」「卒業後の進路」への理解が必要
  • 親と教師が率直に話し合うことで、生徒も安心して前を向ける
  • 夢を応援するだけでなく、現実的な準備と覚悟を促すことが重要

夢と現実のバランス。その両方を伝えることが、進路指導の役割だと改めて思う。

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