結論:ある程度まではお金で幸せは買えるけれど、一定のラインを超えると「増えても満たされない」という不思議な現象が起こります。

はじめに:給料が上がっても、なぜか満たされない?
「年収が上がったらもっと幸せになれるはず…」
「ボーナスの額に一喜一憂してるけど、本当にそれが人生の幸福度なのかな?」
そんなふうに感じたことはありませんか?
実はこの問い、経済学者や心理学者たちが何十年も研究してきたテーマなんです。
今回のブログでは、**「収入と幸福感の関係」**をめぐる有名な研究を3つご紹介しながら、
「本当の幸せとは何か?」を一緒に考えていきましょう。

【1】リチャード・イースタリンの「幸福のパラドックス」とは?
まずは1974年に発表された、経済学者リチャード・イースタリンによる衝撃的な研究から。
● パラドックスの内容
- 所得が高い人ほど、同じ国の中では幸福度が高い傾向がある
- しかし、国全体の所得(GDP)が増えても、平均的な国民の幸福度は上がっていない
- つまり「経済成長=幸福度の上昇」とは限らない
この発見は「イースタリン・パラドックス」として知られ、経済成長信仰への一石を投じました。
● どうしてそうなるの?
イースタリンは、次のような理由を挙げています:
- 人は“相対的な豊かさ”を重視する:他人より豊かでいたいという比較心
- 欲望の順応性:お金が増えると新たな欲求が生まれ、「もっともっと」となる
- 物質的豊かさに慣れてしまう:最初はうれしかった高級車も、やがて日常に溶け込む
つまり、お金は確かに幸福感を高めるが、それは一時的であり、長期的には他の要因──人間関係や健康、自己実現などが大きく影響するというのです。

【2】カーネマン&ディートンの研究:「年収約800万円の壁」
次にご紹介するのは、2010年に心理学者ダニエル・カーネマンと経済学者アンガス・ディートンが行ったアメリカでの大規模調査です。
● この研究が注目された理由
- 約45万人を対象に調査した、極めて信頼性の高いデータ
- 幸福を**「感情的幸福(emotional well-being)」と「人生の評価(life evaluation)」**に分けて分析
● 研究結果のポイント
- 年収**75,000ドル(当時約800万円)**を境に、「感情的幸福」は頭打ちになる
- ただし「人生の評価」はその後も収入に比例して少しずつ上がり続ける
☑ 感情的幸福=「今日楽しかった」「不安が少なかった」など日常的な気分
☑ 人生の評価=「自分の人生に満足しているか」などの長期的な見通し
この研究は、「日々の感情面では、ある程度以上の収入では幸福感は増えにくい」という説を裏付け、
**「年収800万円説」**として日本でも話題になりました。
【3】マシュー・キリングワースの異議申し立て:「幸福は収入に比例し続ける」
そんな中、2021年に発表されたのがマシュー・キリングワースによる最新研究です。
彼はスマートフォンアプリを使い、約3万人のアメリカ人からリアルタイムで幸福感の記録を集めるというユニークな手法を取りました。
● 驚きの結果
- 収入が上がれば上がるほど、幸福感も持続的に上がる
- 特に高収入層でも、日々の感情的幸福が高い傾向が見られた
● なぜ従来と違う結果になった?
- 回答をリアルタイムで取得したため、記憶のバイアスが少ない
- 幸福を一元的にスコア化せず、細かな感情の波を測定した
この研究は、カーネマンらが示した「幸福の頭打ち説」に一石を投じることになり、世界中で議論を呼びました。
3つの研究を比べてみよう【まとめ表】
観点 | イースタリン | カーネマン | キリングワース |
---|---|---|---|
収入と幸福の関係 | 所得には限界がある | 年収約800万円で感情的幸福は頭打ち | 高収入でも幸福感は増え続ける |
幸福の定義 | 主観的幸福(国レベル) | 感情的幸福と人生評価の2軸 | 感情的幸福をリアルタイム測定 |
データの特徴 | 横断的・国比較 | 大規模な統計分析 | アプリでリアルタイム収集 |
最後に:あなたにとっての「幸せ」は何でできていますか?
どの研究にも共通するのは、「お金は確かに幸せに貢献するが、それがすべてではない」という点です。
● 収入がもたらすもの
- 生活の安定(衣食住)
- 自由の拡大(選択肢や移動の自由)
- 不安の軽減(病気や事故への備え)
● お金では得られないもの
- 親しい人とのつながり
- 自己肯定感や達成感
- 心の安らぎや生きがい
**幸福は“外から与えられるもの”ではなく、“内側から感じるもの”**でもあるのです。

だからこそ、知っておきたい「幸せの複合方程式」
最後に、ハーバード大学のグラント研究などでも示されているように、「幸福感の要素」はおおよそ以下のように分解できます:
- 人間関係:約40%
- 健康:約25%
- 仕事の満足度:約15%
- 経済的安定:約10%
- その他(自己実現、自由、趣味など):約10%
つまり、収入だけに頼るのは**とてもリスクの高い“幸せ戦略”**とも言えるのです。
参考文献・出典リンク
- Richard Easterlin (1974). “Does Economic Growth Improve the Human Lot?”
- Daniel Kahneman & Angus Deaton (2010). “High income improves evaluation of life but not emotional well-being.”
- Matthew Killingsworth (2021). “Experienced well-being rises with income, even above $75,000 per year.”
- Harvard Study of Adult Development(The Grant Study)
✍️ ブログを書いた人よりひと言
学生さんも社会人も、きっと「お金がもっとあればな」と思う瞬間があるはず。でもそれだけじゃ、心は満たされないこともある。そんなとき、自分にとっての“本物の幸せ”をちょっとだけ見つめ直してみませんか?


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