1. 生徒からの相談
ある日、中学3年生の女子生徒が僕のところにやってきた。
彼女はクラスで特別に目立つわけではなく、かといって孤立しているわけでもない。成績は優秀で、性格も明るい。友達もそれなりにいるのだが、どこか不満を抱えている様子だった。
椅子に腰かけると、開口一番、彼女はこう言った。
「先生、私、陽キャが嫌いやねん」
そのあまりにストレートな言葉に驚きつつも、僕は「ほう。それで」と平静を装って返す。
2. トイレを占拠する陽キャたち
彼女が真っ先に口にしたのは、学校のトイレでの出来事だった。
「あいつら、ホンマにうるさいし、意味わからん。トイレに集団でいつもいてて、手洗いたいのにどいてくれへんねん」
僕にも心当たりがあった。
休み時間のトイレは、ただ用を足す場所ではなく、派手なグループの“溜まり場”になりがちだ。洗面台の前に数人で陣取り、スマホをいじったり、化粧を直したり、大声で笑い合ったりする。
一方で、普通に手を洗いたい生徒にとっては、ただただ迷惑な存在になる。特に女子トイレでは男性教師が介入できないため、指導は女性の先生に頼るしかない。だが人数も少なく、巡回にも限界がある。結果として、静かに使いたい子が割を食ってしまうのだ。
彼女が抱える不満は、まさにその「トイレが使えないこと」よりも、「威圧感を与える彼女たちの存在」だった。
3. 授業中にも見える“自信のなさ”
僕は彼女に聞いた。
「お前の言う陽キャ軍団って誰や?」
名前を挙げてもらうと、確かに派手で明るいタイプの子たちだった。しかし彼女たちは授業中に問題を起こすわけではない。むしろ、よく観察すると“自信のなさ”がにじみ出ていた。
「授業中でもそうやん。指示を出して作業を始める時、まず友達とコソコソ相談してからやっと動くやろ。自分一人で判断して行動することをめっちゃ恐れてるんやと思う」
一見すると堂々としているように見える子たちも、実は「失敗するのが怖い」から友達と群れて確認し合っているのだ。
彼女はその言葉に大きくうなずいた。
4. 友達幻想にとらわれる心理
さらに僕は続けた。
「きっと、あのグループも仲良さげにやってるように見えるけど、ホンマに心から仲良しってそんなにおらんで」
彼女は「なんでつるむんやろ」と疑問を漏らす。
僕は答えた。
「怖いからや。一人ぼっちになったら何もできんことを、自分でわかってるからや。だから“友達がいないと不安”って思ってしまうねん」
「友達は大切にすべきもんや。でもな、“私たちずっと一緒♡”“絶対裏切らへん!”みたいな友情は、ほとんど幻想や。中学生や高校生の間は特に、そういう“友達幻想”に縛られてる子が多いんや」
彼女は「なるほどな」と少し納得した表情を見せた。
5. 卒業すれば終わる関係
最後に僕はこう伝えた。
「そんなもんは中学を卒業したらなくなる。それぞれ進路に進んで、関わらんようになる」
彼女は「それはそうかもしれんけど、今なんか我慢できひんねん」と返す。
「我慢なんかせんでもええ。どうせ終わる関係なんやから、自分にとって気持ちのいい過去だけを持っとけばええんや。これからまだたくさんのことが起きるんやし、嫌なことで気持ちや時間を使うのは無駄無駄やで」
すると彼女は少し笑って、
「そうやな。無視すればいいかもね」
と軽く口にした。
6. まとめ
この女子生徒の「陽キャが嫌い」という一言は、ただの愚痴ではなく、「威圧的な集団への違和感」と「友達幻想への疑問」から出たものだった。
中学時代は、グループや友達関係に縛られているように感じる。しかし実際には、卒業すれば自然と人間関係は変わっていく。だからこそ「今の嫌なこと」にエネルギーを浪費する必要はない。
大切なのは、「自分にとって心地よい関係」を選び取りながら、安心して日々を過ごすことだと思う。
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